直腸がん手術後の人工肛門、「全員につける」から「必要な人だけ」へ――血液検査とCTで選別する新戦略の効果
直腸がんの腹腔鏡手術後、吻合部を守るために造設される「予防的回腸ストーマ(人工肛門)」は、多くの患者に合併症をもたらしてきました。新たなランダム化比較試験では、術後の血液検査(CRP)とCTスキャンを組み合わせて必要な患者だけにストーマを造設する「選択的戦略」が、安全性を損なうことなくストーマ造設率を大幅に減らせる可能性を示しました。
何が分かったか――研究の結論
直腸がんに対する腹腔鏡低位前方切除術(LAR)の後、術後の炎症マーカーであるCRP(C反応性タンパク)の値とCT画像を基準として、ストーマが必要かどうかを個別に判断する「選択的ストーマ造設戦略」を採用した場合、全員に予防的ストーマを造設する従来の方法と比べて、ストーマの造設率が大幅に低下しました。重要なのは、吻合部(腸をつなぎ合わせた箇所)が縫合不全を起こす割合や、術後合併症の全体的な発生率には両群間で差が見られなかった点です。さらに、選択的戦略を受けた患者群では手術時間・術中出血量が少なく、身体機能や精神的健康を含む生活の質(QOL)スコアも有意に高い結果となりました。
研究の概要――対象と方法
この研究は、ランダム化比較試験(RCT)として実施されました。対象となったのは、ステージⅡまたはⅢの中〜下部直腸がんに対して腹腔鏡LARを受けた200人の患者です。患者は1対1の割合で無作為に2つのグループに割り付けられました。一方は「CRP/CT誘導選択的ストーマ群」(100人)、もう一方は「通常の予防的ストーマ群」(100人)です。
選択的ストーマ群では、術後1日目から毎日血中CRP値を測定しました。術後3日目のCRP値が114 mg/L以上、または1日あたり15 mg/Lを超える上昇が認められた場合に、造影CTを撮影し、縫合不全を疑う所見があった場合にのみストーマを造設するという流れをとりました。主要評価項目は「12か月間の追跡期間を通じてストーマなしの状態を維持できたかどうか」でした。なお、両群の患者背景や腫瘍の特性は統計的に同等であったことが確認されています。
結果――具体的な数値から見えること
ストーマ造設率は、選択的ストーマ群で22.0%、通常ストーマ群で100.0%となり、選択的戦略によってストーマ造設率が顕著に低下しました。吻合部縫合不全の発生率は、選択的ストーマ群で0%、通常ストーマ群で1.0%と、両群間に統計的な差は認められませんでした。術後合併症の全体的な発生率も、選択的ストーマ群31.0%・通常ストーマ群32.0%とほぼ同水準でした。
手術に関する指標では、選択的ストーマ群の手術時間(平均148.4分)が通常ストーマ群(平均166.6分)より短く、術中出血量も選択的ストーマ群(平均168.9 mL)が通常ストーマ群(平均197.3 mL)より少ない結果となりました。ストーマに関連した合併症は、選択的ストーマ群で3.0%、通常ストーマ群で30.0%と、選択的戦略を採用した群で大幅に少なかったことも注目されます。QOLの評価では、全般的な健康状態・身体機能・情緒的機能のいずれのスコアも、選択的ストーマ群が統計的に有意に高い値を示しました。
生活への示唆――この研究が意味すること
予防的ストーマは吻合部を守るための重要な手段である一方、造設された患者の多くがストーマ自体による合併症(皮膚トラブル、漏れ、感染など)や心理的負担を経験することが知られています。本研究の結果は、術後のCRP測定とCT画像を組み合わせることで「本当にストーマが必要な患者」を絞り込み、不必要なストーマ造設を避けられる可能性を示唆しています。
ただし、この研究にはいくつかの留意点があります。両群とも縫合不全の発生そのものが非常に少なく、安全性の比較という観点では評価が難しい面があります。また、試験が後向き登録であること、実施施設の条件(術後モニタリング体制など)が整った環境での結果であることも考慮が必要です。研究者らは「適切な監視体制が整った施設においては、この選択的戦略が通常の予防的ストーマ造設に代わる選択肢となり得る」と述べており、今後さらに多施設・大規模での検証が期待されます。直腸がん手術を控えた患者にとっては、担当医とストーマ造設の方針について十分に話し合う際の一つの参考情報となるでしょう。
出典
BMC surgery(2026 Oct 14)
Routine versus postoperative CRP/CT guided selective diverting ileostomy after laparoscopic low anterior resection for rectal cancer: a comparative randomized controlled trial.(PubMedで見る)
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