VRで「旅する」高齢者ケア――介護施設での没入型VRプログラムが心理的幸福感を支える可能性
身体に障害を持つ介護施設の高齢者を対象に、没入型バーチャルリアリティ(VR)を用いたプログラムの体験を質的に調べた研究が発表されました。参加した高齢者の多くがVR体験を「楽しい冒険」と表現し、心理社会的な幸福感への良い影響が示唆されています。介護学生との世代間交流という学習効果も確認されました。
結論:何が分かったか
介護施設に暮らす身体障害のある高齢者に対し、没入型VR(仮想現実)を使ったセラピープログラムを12回にわたって実施したところ、参加者の大多数がこの体験をポジティブに受け止めていたことが明らかになりました。旅行・自然・回想をテーマにしたVRコンテンツは、移動が困難な高齢者に「新たな地平を広げる」体験を提供し、心理社会的な幸福感を支える可能性があると研究者らは述べています。また、プログラムを届ける側として参加した医療系学生にとっても、地域に根ざした世代間学習の場として意義があることが示されました。
研究の概要:対象と方法
本研究は、複数の介護施設を対象とした多施設ランダム化比較試験(RCT)に組み込まれた質的調査として実施されました。RCTでは「没入型VRセラピープログラム(IVRTP)」が高齢者のメンタルヘルスに与える効果が検証されており、本研究はその参加者の主観的な体験を深く掘り下げることを目的としています。
対象となったのは、介護施設に入居する身体障害を持つ高齢者28名(7グループ)と、プログラムを届ける介入者として関わった医療系の学部学生9名(3グループ)です。IVRTPは観光地の映像、自然の風景、回想療法的な要素を組み合わせた12セッション構成のプログラムで、ヘッドマウントディスプレイを使って提供されました。データはフォーカスグループインタビューによって収集され、テーマ分析の手法を用いて分析されました。
結果:5つのテーマ
分析の結果、以下の5つのテーマが浮かび上がりました。
①視野を広げる体験:新しい技術に触れ、新しいことを学び、これまでできなかった活動に参加することで、高齢者の「視野が広がった」という感覚が報告されました。
②リアルな旅とイマーシブな逃避:参加者は、施設という環境や身体的な移動の制限から一時的に「解放される」感覚を得たと語りました。VRの没入感がその体験をよりリアルなものにしていたとされています。
③過去の記憶の想起:観光地の映像が懐かしい記憶を呼び起こし、昔と現在の観光地の変化に驚く声も多く聞かれました。回想療法的な効果が示唆されています。
④楽しい冒険:インタビューは笑い声やポジティブな感情の表現に満ちており、参加者にとってVR体験が「楽しい冒険」であったことが示されました。
⑤軽度の不快感:一部の参加者からは、ヘッドマウントデバイスの装着による目の疲れやめまいなど、軽度の不快感が報告されました。
介入者として関わった学生からも、これらのテーマを裏付ける証言が得られました。学生たちは高齢者とともに意味を見出し、共に学ぶ経験を通じて、地域・世代間学習の教育的価値を実感したと報告しています。
生活への示唆
今回の研究は、移動が困難な高齢者にとって、没入型VRが施設内で利用可能な、楽しく有益な心理社会的サポートの手段となりうることを示唆しています。ただし、本研究は質的調査であり、参加者数も限られているため、結果を広く一般化するには慎重さが必要です。また、ヘッドマウントデバイスによる軽度の不快感が一部に生じた点も考慮が必要です。
一方で、医療系学生が介入者として参加するという形式は、高齢者へのサポートと学生の実践的な学習機会の両立という観点から注目に値します。研究者らは、VRプログラムをカリキュラムに組み込む可能性についても言及しており、今後の介護・医療教育のあり方にも影響を与えうる知見として期待されます。
出典
Journal of medical Internet research(2026 Oct 29)
Experiences of Immersive Virtual Reality Among Older Adults With Physical Disabilities: Qualitative Process Evaluation of a Multicenter Randomized Controlled Trial.(PubMedで見る)
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