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細胞シート治療で心筋を再生する2回の手術

心臓の再生医療の最前線が「細胞シート治療」です。細胞シートは心筋シートと呼ばれることもあります。細胞シートを貼ることで弱った心筋を再生して、心臓機能を蘇らせることができるのです。実際に細胞シート治療を受けた男性の手術の様子を見ていきましょう。『みんなの家庭の医学』で紹介されていました。



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細胞シート治療で心筋を再生する2回の手術とは?


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心筋へ血流が届かず心臓の機能が悪化

京都府の66歳の男性は9年前に心筋梗塞を発症。地元の病院で緊急手術を施され一命を取り留めました。

そのとき男性が受けたのはステント手術。カテーテルと呼ばれる細い管を体に挿入し、詰まった心臓の冠動脈に送り込みます。そして、その先からステントという筒で詰まった血管内を広げ、血流を確保するというものです。

しかし、いまでは動悸がひどく、自宅の2階にすら上がることができなくなってしまいました。ステント手術を受けたにもかかわらず、9年で重症心不全という病態にまで陥ってしまったのです。

この男性の心臓はどんな状態なのでしょうか? 心臓に送り込まれたステントは、冠動脈という大きな血管の血流を回復させることはできました。しかし、その先の多くの抹消血管が詰まることで血流が心筋へ届かず、心臓の機能が徐々に悪化していたのです。


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心筋が再生する細胞シート治療とは

このように、ステント手術自体は成功したものの、心臓の機能が悪化してしまうケースが稀にあります。このまま心臓が衰弱していくのを見ているしかないのか、いっそのこと心臓を移植する手術を受けるのか、男性には究極の選択肢しか残っていませんでした。

そんな男性に一条の光が差し込んだのは1年前。心臓機能を回復させることに世界で初めて成功した…という新聞記事を見つけました。それが「細胞シート治療」です。心筋シートと呼ばれることもあります。

これは心臓の細胞に極めて近い患者の足の太ももの細胞を使って作られた細胞シートを、ダメージを受けた心筋に貼り付けるというもの。シート内で作られた栄養が送り込まれ、弱った心筋が再生を始めることができるのです。

心筋が再生する細胞シート治療


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細胞シート治療は手術を2回行う

細胞シート治療法を開発したのは、大阪大学医学部付属病院の心臓血管外科の澤芳樹教授。重症の心不全患者を救い続けてきた心臓手術のエキスパートです。ノーベル賞を受賞したiPS細胞研究の山中伸弥教授と共同研究を行い、心筋細胞の再生医療で斬新な治療法を開発しました。

実際の細胞シートを見てみると、白っぽい半透明の薄い膜です。直径4cmほどの円状になっていました。これを心筋に貼り付けるわけです。

このため、細胞シート治療では合計2回の手術が行われます。まず太ももの筋肉を採取する手術を行って、筋肉から筋芽細胞を摘出。それを1か月以上培養して細胞シートができ上がったら、それを心筋に貼り付ける2回目の手術です。


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心筋を再生する細胞シートの素を摘出

1回目の手術は4月初旬。全身麻酔が効いてきたのを見計らって手術は始まりました。左太ももを10cmほど切り開き、奥にある内側広筋という筋肉を探します。この筋肉は、摘出しても日常生活には支障のない筋肉です。

10分後、内側広筋を切開部から引き出して3cmほど切り取ります。この筋肉の中に心臓を蘇らせる心筋を再生する細胞シートの素・筋芽細胞が存在するのです。10gほどを摘出しました。切り開いた筋肉を縫合して、この日の手術は終了です。

筋芽細胞は、特殊な液体の中で筋肉をバラバラにしながら抽出。あとは取り出した細胞を時間をかけて培養します。


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細胞シートを心筋に貼り付ける手術

2回目の手術は7月初旬でした。無菌室から培養シートを搬出。5枚の細胞シートに3億個以上の細胞が詰まっています。

開胸手術によって心臓を露出させると、特殊なノリを付けた細胞シートを貼り付け。心筋の弱った場所を探して、細胞シートを貼る場所を探します。

心臓は動いているだけに、貼り付けるのは至難の業。こうして合計5枚の細胞シートで、心臓の弱った箇所をまんべんなく網羅しました。あとは開胸した部分を縫合して手術は終了です。手術は3時間に及びました。

手術から1か月、リハビリ中の男性は血色がすっかりよくなっていました。以前のように散歩や買い物を楽しめる日も近いでしょう。


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心筋再生の細胞シート治療を承認申請

なお、この心筋再生の細胞シート治療について、2014年10月30日にテルモが心厚生労働省へ製造販売の承認申請を行いました。申請が承認されると世界初の心筋再生医療製品となります。

心不全は心臓の機能が低下して、必要な血液量を送れなくなる病気。重症になると、人工心臓の装着や心臓移植が治療の選択肢となります。

テルモは2007年から心筋再生の細胞シートの開発に着手。2012年から国内3医療機関で治験を実施していました。なお、安全性などの審査には約1年間かかる見通しです。

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